独創性と勇気

新しいことを始めるには、勇気がいる。
マティスは独特な、思い切った配色で野獣派「フォービズム」と呼ばれるスタイルを作りました。下に示した作品「帽子の女」がその原点と言えるものです。この作品のモデルはマティスの妻アメリーです。彼女はマティスより2歳年下でしたが、南フランス生まれの明るい性格だったそうです。

左:マティス 右:アメリ―
「帽子の女」

フォービズムとはどんなスタイルなのでしょうか。3つの特徴があります。

①明るく濁りのない色

②細部描写の簡略化

③平面的な描写 

この特徴の中でも細部描写の徹底した簡略化は新しい美術の幕開けと言ってもいいかもしれません。
しかし、フォービズムのスタイルの作品が発表された当時は評価されていませんでした。なぜ評価されていなかったのか?当時評価されていた作品と比較してみましょう。

クリムト「パラス・アテナ」

例えば、クリムトなどがあります。1900年が始まってすぐは、様々なスタイルが混在している時期ではありましたが、細部描写することを捨てて、大胆に簡略化しているフォービズムは斬新なものだったと想像できます。その新しさから不評を買っていたマティスの絵は、それでも、ガートルード&レオ・ステインというコレクターによって購入されて、大きな励みになったようです。


もう一つの大きな特徴として、明るく濁りのない色使いがあります。マティスが初期に影響を受けていた印象主義の画家たちが用いた筆触分割からシフトして、大胆に単体の色の強さを使ったのです。

画面下の水面が筆触分割の特徴を強く示している モネ「ラ・グルヌイエール」

筆触分割とは、何色かの絵の具を混ぜて新たな色を作るのではなく、画面上に筆触を隣り合うように配置し、それぞれの色が鑑賞者の網膜上で疑似的に混ざって見えるように表現する方法です。マティスは色を混ぜて光のニュアンスを出すのではなく、色の強さを信じることにしたと私は感じます。

マティス「ダンス」

私の色選びは、いかなる科学的な理論にも基づいてはいない。(アンリ・マティス)

My choice of colors does not rest on any scientific theory.

マティスによれば現実の色合いをリアルに描く必要なく、作者の心や感情を軸に、自由きままに色彩表現されていればよい。それこそが、フォーヴィスム表現である。色で感情を表現することを発見したのです。

マティス「緑のすじのあるマティス夫人の肖像」

色は混ぜれば混ぜるほど濁っていきます。その濁りが作品の弱さに通じると考えたのではないでしょうか。上の作品のモデルはマティスの妻アメリーです。彼女は結婚前にマティスが他の女に産ませた養女のマルグリットも引き取り、極貧のマティスを帽子店などを経営して必死で養いました。彼女はマティスより2歳年下でしたが、南フランス生まれの明るい性格で若きマティスを精神的にも、経済的にも支えました。強さと優しさを兼ね備えた妻の存在を大胆な色使いで表現しているようです。

少し別の角度からこの作品を見てみましょう。イラストと絵画作品の違いについてです。その違いについて少し考えてみてください。私は、とても感覚的なのですが、パッと見た時に何を目的に描かれたか分からないものが絵画作品だと思っています。上手く説明できないのです。でもそんな感じがします。

独創性には、勇気がいるものだ。(マティス)

Creativity takes courage.

ピカソとはライバル関係でありながら、友情で結ばれていました。お互いに新しい表現を見つけるために刺激しあい高め合っていたのです。

ピカソ「夢(赤い椅子に眠る女)」

マティスはフランスの国立美術学校の受験に失敗したり、なかなか絵を認められずに挫折しそうになっていました。極めて貧しい生活を送りながらも妻や子どもに支えられて、それでもあきらめずに新しいスタイルを探し求め描き続けたのです。その結果「色彩の魔術師」と謳われ、20世紀を代表する芸術家として活動をつづけました。

独創性には、勇気がいるものだ。

勇気を持って新しいことに挑戦しつづけることが人を輝かせると、この言葉から私は感じます。みなさんも日々の生活の中で、大小に関わらず決断することがあるはずです。その決断を挑戦的なものにしてみるのはいかがでしょうか。少しの困難の向こうに新しい自分が見つかるかもしれません。

【オマケ】関西で見られるマティスの作品

「 鏡の前の青いドレス 」京都国立近代美術館

Contact

お気軽にご相談ください。