灰色の半年間の旅

私のアートスクールに、1年前から通ってきてくれている生徒さんがいます。今は高校2年生で、絵を描くのがとても好きで美術系の学科がある高校に通っています。それだけでも少し珍しいのですが、当本人の考え方もとてもユニークで、同学年の子と比べると多分大人なんだと思います。自分の意見をちゃんと持っていて、でも他の人の意見を聞くこともできる柔軟性がある生徒さんです。

毎週毎週私は、その生徒さん向けに授業の準備をしていました。ちゃんと受け止めてもらえるのか?役に立つ何かを持って帰ってもらえるのか?ドキドキしながら。なぜなら、駆け出しのスクールで生徒がほどんど1人だけ、しかも絵を観て対話をするだけの授業が他所にないので参考にするものもありませんでした。でも、私はスクールを軌道に乗せなければ!と夢中でプログラムをつくっていました。

そして、その生徒さんとの90分の授業を楽しみにしていました。

初めて授業に来てくれて半年ほど経ったある日でした。授業が終わって、その生徒さんが何か言いたげで、でも何か言いづらそうにしていました。その子は言いたい事はハッキリと意思表示するタイプの子なので、珍しい素振りです。

そして、私にこう伝えたのです、毎週来るのが難しくなったので隔週にしてくださいと。私は即座に、自分の授業の内容に問題があるのだ、と考えてしまいました。さらに、自分の考えている理想のスクール自体に価値がないのではないかと、小さな不安が私の心に生まれました。その不安は小さくても後々育っていきそうなものでした。

生徒さんは毎回楽しそうに授業を受けていました。つまづくような思い当たる節がなかっただけに、少し驚きショックでした。この1人の生徒さんすら満足させられないのであれば、スクールに来てくれる生徒さんが増えることは絶望的です。スクールがオープンして半年で厳しい現実を突付けられました。

そんなわけで、私はプログラム見直しを始めました。でも、どんなの内容なら満足なのか、どんな内容ならまた来たくなるのか?見つけ方に最短ルートは多分ありません。どこから手を付けていいか、全く分からず、私は広い砂漠に落とした針を探すような気持ちでした。

そんな状況でしたが、私はプログラムをアップデートに着手し始めました。

まず、本棚にある本をもう一度見直して、参考に出来るものを探しました。私は対話型アート鑑賞という、アート作品を観ながら対話することで観察力や表現力を伸ばすメソッドを使っています。その方法論をもう一度おさらいしました。メソッドの中で重要なのは、多くの意見を引き出す聞く態度です。聞くことが8割で残り2割は知識の提供なので、生徒さんに実のある話を自然にしてもらうためにどうしたらいいのか見直しました。その他にも、バタバタと仕事をこなしていると見落としてしまう内容を見つけて、改善することにしました。

また、YouTubeの動画を見てヒントを得ることもありました。私はYouTubeで動画を見るのがとても好きです。中でも岡田斗司夫さんのコンテンツは中身が濃くて面白いのでついつい数珠繋ぎ的に見てしまい、気づいたら2時間経っていることがあります。そんな夢中にさせるコツはどこにあるのかを考えながら見ると、また違った視点で動画を見る事ができます。

その他に、元高校教師の友達にアドバイスをもらいました。私には学校をやめて自分の理想的な学びの環境を作りたいと起業している元教師の友達が何人もいます。その中で普段から頼りにしている元先生に、私の抱えている問題を説明するだけでなく、一緒に授業を受けてもらいアドバイスをもらうこともしました。私が授業に夢中になっていると気づかないポイントを、客観的に見て気づかせてくれて、とても励みになりました。

こうして、様々な試行錯誤を繰り返して私は授業の内容をアップデートしていきました。

そしてついに、手ごたえを感じる授業の原型ができ始めました。内容を詳しく説明できませんが、体験していただければきっと満足してもらえると思います。隔週になった生徒さんは、隔週のままですが毎回の満足度が上がっていると私は感じています。

私は半年前に小さなつまづきを体験し、そこから授業の内容をコツコツと見直し続けることで大きな発見がありました。それは、自分の持っている思い込みを疑い続けることの大切さと、客観的に見てくれる仲間のアドバイスのありがたさです。今やっていることは本当に相手にとって有益なのか、自分がそう思っているだけなのではないかと常に自問自答すること、信頼できる人に相談してアドバイスをもらい素直に受け止めることをこれからも続けて行こうと思います。

自分のことって自分では見えてないですから。

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